前回の記事の続きである。
私は国境の町のパダンブサールにてバンコク行きの寝台列車を待っていた。既にタイ国鉄のマレーシア乗り入れは廃止されており、現在はペナン島近くのバタワースから乗り込む事はもうできない。
マレーシアの出国審査、タイの入国審査は既に終わっており、暇なので駅2階にあるレストランや売店などを見て回る。特にめぼしいものはないようだ。
そうこうしているうちにマレー時間の18時になり、バンコク行きの寝台列車が到着した。まだ出発まで時間があるが、座席で座ってゆっくり待つことが出来た。
ちなみに座席番号は少々分かりづらいが、席の真横に記入されている。
出発までまだ時間がある為か、食事メニューが配られてきた。表が夕食で、裏が明日の朝食分だ。とりあえず夕食のみオーダしておいた。
そして定刻である、マレー時間18時40分ちょうどに列車は出発した。遅延が珍しくないタイ国鉄にしてはスゴイと、妙に感動してしまった(笑)。
タイ国境を超えると明らかに風景がマレーシアと違って見える。マレーシアがヤシ畑だらけな風景に対して、タイでは子供が線路脇で遊んでいたりして、人々の生活の様子がよく分かる気がする。
タイ国境を超えるとタイムゾーンも変更になる為、時計の針をタイ時間(マレー時間マイナス1)に変更した。
しばらくすると、先ほどオーダーした食事(fried chicken with cashew nuts)がやって来た。出来たてで温かい。写真で見た以上に食欲をそそる内容でビックリする。
自分が思うに、この列車内での食事はタイ国鉄に乗る最大の楽しみの1つ、と言っても過言では無いだろう。とにかく食事がとても美味しいのだ。何というか、自分で記事を書きながら、またタイ料理が食べたくなってくるほどだ(笑)。
確かにバンコクの街中で食べる値段よりは少々お高いが(170バーツ)、列車内でタイの風景を楽しみながら食事する贅沢を考えると、決して高くないと思う。実はこの料理は列車内にある食堂車で作られており、何というかタイ国鉄のプライドを感じた(笑)。是非一度味わって頂きたいと思う。
タイ時間18時30分、ハジャイに到着する。既にすっかり日も落ち、小雨も降っているせいか、車窓の外は寒々としている。
ハジャイは合流点(分岐点)となっている為、スンガイコーロク発の列車とここで連結する。連結の際、大きな音が何度か響き渡った。
その後、係の方がベッドメイクをしてくれて、座席が寝台に変身した。洗いたての厚手のタオルケットが気持ち良い。
すっかり夜モードとなってしまった車内(笑)。寝台は上段と下段があるのだが、値段が安いからといって、決して上段を選ばないことをオススメする。上段はただでさえ狭く、窓もなく、物置のように使われているような場所だ。外の景色も楽しめず、カーテンを閉めてひたすら寝る事しか出来ない。トイレに行く際も面倒だ。
最初はマレー鉄道もタイ国鉄も同じ寝台列車を採用しているものと思っていたのだが、よく見ると結構違うのだ。マレー鉄道の場合、上段と下段は同じ幅となっており、上段であっても窓が付いていて快適なのだが、タイ国鉄の場合は上段が何故かくびれた形状になっており、明らかに幅が狭いので要注意だ。
かなり早い時刻(19時頃)にベッドメイクされてしまうので、あとはもう寝るしかないが、外も真っ暗で景色も楽しめない為、仕方が無いだろう。結構車内は振動が激しいので読書は不向き。オーディオブックや音楽を聴きながら眠りに入る。
この寝台列車で残念に思うのは、海岸線のすぐ近くを走る箇所があるのだが、夜中の為よく見えない事だ。一度昼間の列車で海岸沿いの町にも訪れてみたい。
日付はいつの間にか次の日に変わっており、朝日で目が覚めた。
この寝台列車は本当に快適で、ぐっすり眠る事が出来た。ただし結構ガタゴト揺れるので神経質な人には不向きかもしれない。
車両最後尾からの風景。一直線のレールが気持ち良い。タイ国鉄はご覧の通り、全く電化されていない為、マレー鉄道のように寝台列車が廃止されるような事は当分無いだろう。進化をする事で逆に失う物もあるのがよく分かる。
昨晩の雨の影響だろうか。線路の中にまで浸水してきている。水浸しの中にも関わらず、列車が走っている点に注目。
バンコクに近づいて来ると、もの凄い勢いで高架橋を建設しているのが見える。こういう景色を見る度に、新興国の力強いパワーをひしひしと感じる。
この紫の素敵な列車は、かつて日本で走っていたブルートレインだ。現在はバンコク〜チェンマイ間を走行している。機会があれば一度乗ってみたい。
そして10時45分、終点のバンコク駅(ファランポーン駅)にようやく到着した。まるでイタリアのミラノ駅のような美しいアーチが特徴的だ。
もうバタワース行きは廃止されたにも関わらず、あらゆる所に今もバタワースの文字が(笑)。こういう適当な所が非常にタイっぽい。旅行者の方はくれぐれも気を付けて。
ファランポーン駅は今年2016年6月で建設100周年を迎えたそう。中央駅に相応しい、風格のある立派な建物だが、今後、中央駅としての機能はバンスー駅に移す予定であるとのことでちょっと残念に思った。せめてこの伝統のある駅舎だけでも美しく保存してもらいたいものだ。